Rule The Waves3 オーハン海軍奮闘記

【Rule The Waves 3】オーハン海軍奮闘記 第2回

墺西戦争

スペインと開戦した1892年5月。シュテルネックは手記にこう記しています。

「この戦争は、大国から見ると雑兵同士の小競り合いだろうが、私たちにとっては飛躍の一歩となるだろう。私の心は踊っている。我が艦隊が自らの未来を切り拓きに行くのだ」

彼がまだ小さなポーラの軍港から見送ったのは、10隻程度の小艦隊に過ぎません。そしてその小艦隊がオーハン海軍の全力です。

そんな艦隊が未来を切り拓く?冗談にしか聞こえません。

それとも彼には妄想癖があったのでしょうか。

けれど想像してみてください。

それまでアドリア海でさえ手に余るとされた沿岸艦隊がオトラント海峡を越え遠くイベリア海に赴くのです。アドリア海の隅にいた田舎者が海原に出たという事実。まるで地方から都市に出た若者の様じゃありませんか。シュテルネックはさぞ胸熱だったことでしょう。

さて、スペイン戦時のシュテルネックの艦隊編成は次の通りです。

【オーハン海軍艦隊編成 1892年】

第1艦隊戦艦7隻
第2艦隊装甲巡洋艦3隻、防護巡洋艦3隻
第3艦隊仮装巡洋艦2隻、コルベット4隻

戦艦こそが海の覇者だという周囲への配慮から主力とした第1艦隊は後詰の部隊とし、高速で速射力のある第2艦隊をメインで運用します。通商破壊と護衛は第3艦隊に任せて戦闘以外の面でスペイン海軍を追い詰めます。

少ない戦力にそれぞれ役割を与えたものの、使い物になるのは第2艦隊のみです。

1892年5月2日。偵察によると、スペインは北ヨーロッパに戦力を集中させ、地中海には戦艦1隻のみがいるとのとこです。オーハン艦隊はスペインの艦艇が地中海に集まる前に、まずこの1隻を美味しくいただくことにしました。

午前4時砲戦開始。敵戦艦は17ノットの速力を誇り、16ノットの戦艦では追いつけないことがすぐに分かりました。案の定、戦艦2隻は置いてきぼりを食らい、巡洋艦戦隊が矢面に立って砲戦をすることになりました。

海戦後、シュテルネックは「これだから足の遅い艦は嫌いだよ」という言葉を次官に漏らしていたそうです。

それでも巡洋艦戦隊は善戦し、暫くすると舵を破壊されたのか敵戦艦がクルクルと回り始めました。その隙に味方戦艦が追いつき、全艦でスペイン戦艦に榴弾の雨を降らせます。

少しして狙い通り火災を発生させましたが、スペイン戦艦はなかなか沈まず、一度止まってもすぐに復帰して逃げようします。

往生際が悪い!

結局魚雷を使い、それが致命打となってスペイン戦艦は沈没しました。

結果的にはシュテルネックの戦略通りになったものの、戦艦の強靭さが予想以上のものであることが示された戦いでした。

海戦終了後、敵戦艦5隻が北欧から地中海に進出。敵巡洋艦部隊は海外領土へ出払っているようで、地中海到着までには少し時間がかかっていますが、先の海戦にスペインの戦艦艦隊が間に合っていれば、オーハン艦隊は敗北したでしょう。

危ない危ない。

依然としてオーハンは総艦艇数・総トン数ともに劣勢ですが、海域封鎖されないのは幸いです。

艦隊戦力が十分でないと考えていたシュテルネックは、戦闘艦は引き続き臨戦態勢を維持しつつ、仮装巡洋艦での通商破壊をより一層行い、敵の戦意を挫くよう部下に命じました。

艦名Conte Mittrowsky級掃海艇
排水量1100トン
主砲4インチ砲2基2門
速力18ノット
建造数6隻

1892年5月、スペインの機雷網に対抗するため、オーハンは掃海艇の設計に着手しました。

巡洋艦戦

集結していた敵戦艦5隻が出てこないまま半年が経った1892年12月、新鋭Helgoland級3隻が敵装甲巡洋艦2隻と遭遇しました。ようやく敵の巡洋艦が集まってきたようです。

会敵後、オーハン艦隊は同航戦で敵に砲弾を浴びせます。

暫くすると、敵艦2隻のうち1隻の速力が低下。もう1隻は僚艦を見限って南勢方面に離脱していきます。

二兎を追う者は一兎をも得ず。まずは落伍した敵艦から処理。

その後速やかに南西へ転進。離脱したもう1隻を追撃しました。

お ま た せ

マヨルカ島沖で敵艦と再遭遇し、そのまま撃沈しました。

 

年が明けて1893年2月、敵防護巡洋艦1隻と遭遇。

対する我が軍はHelgoland級2隻なので、数的優勢を活かして処しました。

 

沿岸襲撃

翌3月、今度は沿岸襲撃。輸送船やコルベットを含む敵船2隻を沈めるだけの簡単なお仕事だと、艦隊司令は思っていたそうです。

ところが、出てきたのは戦艦2隻。こちらは3隻いるとはいえ全て防護巡洋艦です。この時代の大砲はそう簡単に当たりませんが、戦艦が格上であることに変わりはありません。オーハン艦隊は昼間に接近することを控え、日が沈み次第肉薄突撃を敢行しました

しかし、攻撃の最中に3番艦Jupiterがエンジンルームに被弾。この時代の艦はダメージコントロールが未熟で、浸水を止められずズブズブ沈むことも良くあります。幸い浸水は発生していませんが、もしものことがあると怖いので、艦隊司令はJupiterを早めに艦隊から切り離し、港への帰還を命じました。

残る2隻は砲戦を続行。

速射砲の威力おそるべし。1隻減ってもなお敵艦にダメージを与え続け、遂に1隻が発火。

艦隊司令が勝ったなと思ったのも束の間、今度はHelgolandの艦橋に被弾。艦をコントロールできず、意味もなく東進。敵艦を見失ってしまいました。

開戦後の偵察情報を確認すると、どうやら戦艦1隻を大破まで追い込んでいたようです。

敵艦を沈めきれなかったことについて、艦隊司令は非難にさらされてしまいました。

 

5月もオーハン艦隊は沿岸襲撃に出撃。今回もHelgoland級3隻で臨みます。

前回とは異なり先に輸送船と遭遇。2隻を撃沈し帰投しようと思っていたら敵防護巡洋艦を発見。艦隊は追撃を開始しました。

艦隊司令は数の力で押し通せると息巻いていたそうです。

しかし、敵弾がHelgolandの弾薬庫に命中するとそのまま爆発轟沈。艦隊司令は名誉を挽回することなく海中に没しました。

何ということだ…。

敵艦は残る2隻が執念で撃沈し、海戦には勝利しましたが、新鋭艦を1隻失ったうえHelgoland艦長も戦死してしまいました。この戦争で初の損失艦であると同時にオーハン海軍初の将校の戦死者です。

翌日の新聞で、彼らは英霊として祀り上げられることとなりました。

 

1893年6月、開戦から14か月。

Helgolandの損失を受けて、改Helgoland級が設計されました。

艦名Szigetvar級防護巡洋艦
排水量5800トン
主砲6インチ砲8基8門
速力23ノット
建造数3隻

武装はHelgoland級と同一ですが、技術進歩により少々の増量で速力が1ノット向上し23ノットとなる予定です。

どうやら、シュテルネックは既にこの戦争の後のことを考えていたようです。

彼は、この先速力がとても重要になると見ていました。いずれ主力艦も20ノットを超えるだろう。そうなった場合でも、23ノットの速力があれば艦隊に随伴することが可能であると。

「きっと、この艦は長生きする」

シュテルネックはそう書き残しています。

同月、Helgoland級4番艦が就役。彼女が長女の姿を見ることは叶いませんでした。

墺西戦争終結

1893年12月、開戦から20か月。

敵艦隊が出てこないため全巡洋艦を通商破壊に投入して半年。

海上輸送をズタズタにされ国内の不満が高まったのか、スペインは我が国に講和を打診してきました。

シュテルネックは、海軍には余力があるので徹底的に敵をつぶすべきだと進言したところ、スペインが折れて講和が成立。オーハンは広大な領土と多額の賠償金を獲得することがせきました。

オーハンにとっては久方ぶりの戦勝です。

と言っても、スペインの植民地は全て地中海の遥か彼方にあるため、オーハンではとても統治できません。協議した結果、領土割譲は諦めて全て賠償金に変換することとなりました。

多額の賠償金によりオーハン各地ではお祭りムードです。海軍省でも戦勝祝賀会が行われました。

「スペイン戦の勝利は、海軍の活躍によるところが大きい。政府は今後の予算の割り振りについて考えを改めるに違いない。またカイザーも近代化について前向きにお考えになることだろう。海軍の役割は間違いなく大きくなる。海軍はその期待に必ず応えなければならない」

戦勝に誰もが浮かれる中、シュテルネックは愉悦に浸りつつも、早速海軍近代化の2段階目を用意し始めていたのでした。

【Rule The Waves 3】オーハン海軍奮闘記 第3回海軍拡張計画 スペイン戦後の方針 1894年10月、スペイン戦の後始末が終わり、Szigetvar級3隻が半年以内に竣工する...